歯ぎしりが歯を壊す ― マウスピースで守れる歯の寿命

目次

歯ぎしりとは何か?そのメカニズムと種類

無意識の行動が歯に与える負荷

歯ぎしり(ブラキシズム)は、睡眠中や日中に無意識に歯を噛みしめたり、こすり合わせたりする習慣を指します。これは意図的な行動ではなく、ストレスや神経系の過活動、自律神経の不均衡などが関与しているとされます。

歯ぎしりの3つのタイプ

歯ぎしりは主に以下の3タイプに分類されます。

  1. グラインディング:上下の歯を強くすり合わせるタイプ
  2. クレンチング:強く噛みしめるだけのタイプ
  3. タッピング:歯を小刻みに打ち鳴らすようなタイプ

これらはいずれも、歯に大きな負荷を与え、長期的に見れば口腔内に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

歯ぎしりが引き起こす問題

歯の摩耗・破折・クラック

歯ぎしりによって歯の表面(エナメル質)が摩耗し、内部の象牙質が露出して知覚過敏や歯のひび割れ(クラックトゥース)を引き起こすことがあります。特に「クラックトゥース症候群」は、目に見えない小さな亀裂が神経に近づくことで痛みを生じることがあり、診断が難しい疾患として知られています※1

詰め物や被せ物の脱離

強い力で歯をこすり合わせることで、補綴物(詰め物・被せ物)が外れる・欠けるといったトラブルも生じやすくなります。特にセラミックなどの硬い素材は割れるリスクがあります。

顎関節症との関連

顎に過剰な力が加わることで、関節や筋肉に負担がかかり、口を開けにくい、顎が痛い、音が鳴るなどの「顎関節症」につながることもあります。

マウスピースによる歯の保護

ナイトガードの仕組みと効果

マウスピース(ナイトガード)は、主に夜間に装着する透明な装具です。歯と歯が直接接触することを防ぎ、歯へのダメージを軽減します。また、噛みしめによる顎の緊張も和らげ、顎関節症の予防にも効果があります。

オーダーメイド vs 市販品

市販のマウスピースは安価で手軽に手に入りますが、長期的には合わないことで逆効果になることもあります。歯科医院で型取りをして作成するオーダーメイドタイプのほうが、適合性・耐久性に優れ、安全性も高いです。

マウスピース治療の科学的エビデンス

複数の研究が、マウスピースが歯ぎしりによる摩耗を予防する効果があると報告しています※2.3

これらの研究では、ナイトガードの使用が咀嚼筋の活動を抑え、歯の摩耗や顎関節への負担を減少させることが明らかにされています。

歯を守るために今できること

歯科での正確な診断

歯ぎしりは本人が自覚しにくいため、定期的な歯科健診で摩耗の兆候や顎の状態をチェックすることが大切です。必要に応じて咬合検査やスリープモニタリングが行われることもあります。

生活習慣の見直し

日常的にできる対策として重要なのが、「歯を接触させない」意識です。唇を閉じた状態で上下の歯をわずかに浮かせ、常に接触しないように保つことで、歯の摩耗や顎関節への負荷を大きく軽減できます。これを「歯列接触癖(Tooth Contacting Habit, TCH)」の改善といい、無意識に続けている人ほど、その影響は見逃せません。

また、ストレスやカフェイン、アルコールの過剰摂取は、歯ぎしりの頻度や強さを高める要因となります。睡眠の質を整え、ストレスマネジメントを意識した生活も、歯を守るうえで重要なポイントです。

まとめ|歯ぎしりを「放置しない」という選択

歯ぎしりは、一見些細な習慣のように思えるかもしれませんが、放置すると歯の寿命を縮める深刻な要因となります。マウスピースは、そんな歯を守るためのシンプルかつ有効な手段です。

「最近歯がすり減っている気がする」「顎がだるい」「詰め物がよく外れる」と感じている方は、ぜひ一度歯科医院で相談してみてください。早期発見と予防が、将来の歯の健康を守る第一歩となります。

参考文献:※1 Loyola-Rodriguez JP et al. (2019). “Association between tooth wear and bruxism in adults: A systematic review”. J Prosthet Dent. https://doi.org/10.1016/j.prosdent.2019.02.015

※2 Martynowicz H et al. (2021). “Bruxism and Sleep Apnea: Exploring the Relationship and Implications for Treatment”. J Clin Med. https://doi.org/10.3390/jcm10071535

※3 Naeije M et al. (2001). “The efficacy of occlusal splints in the treatment of bruxism and other temporomandibular disorders”. J Oral Rehabil. https://doi.org/10.1046/j.1365-2842.2001.00731.x

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